明らかになりつつあるエンタメ界隈のニューノーマル
コロナ禍以降の生活様式(とりわけエンターテイメントに関する)のデータが明らかになってきた。国内外のリサーチ会社によってこの1年半の間に実施された調査の結果が、各所で発表されている。中でも現行のカルチャーを牽引するZ世代の動向は、多くの人の関心事ではないだろうか。
アメリカのMRC DataやApp Annie、そして日本のビデオリサーチ社が興味深い調査結果を報告している。この記事ではそれらの会社が提示するデータをもとに、Z世代の音楽観について考察する。いつものXRテクノロジーの話題とは遠く離れているように思われるかもしれないが、実はテック界隈も無視できないデータが揃っているのだ。
まずはアメリカの2社が明らかにした調査結果をもとに考える。
Z世代は「ゲーム」から新たな音楽を発見する
一般的に“Z世代”とは2021年現在の16歳~24歳の、生まれた時分からインターネットが普及していた世代を指す。世界人口で言えば実に3分の1を占めており、その98%がスマートフォンを所有していると言われている。App Annie社によると、多くの国ではZ世代のアクティブユーザー増加率が他の世代より高く、Z世代が及ぼす影響力が拡大しているという。特にモバイルファースト新興市場のインドネシアでは、前年比40%の増加率を記録し、世界で最も急成長している市場であることが明かされている。
そんな中、「Z世代にとってゲームが音楽を見つけるための重要なツールである」と発表したのがMRC Data社だ。同社のレポートによると、この層の28%が音楽の発見にゲームを利用している。この結果は、Z世代が新しいアーティストや曲を見つけるのに、テレビと同じくらいゲームを利用していることを示している。
弊サイトでも繰り返し言及している「フォートナイト」や「GTA 5」が、データの側面から見ても重要な情報源になっているのだ。
この手の事例は増えてゆく一方で、今年7月にはRoblox社とソニー・ミュージックが、Lil Nas Xとのライブバーチャルコンサートを成功させた後、さらに多くのソニーのアーティストをゲームプラットフォームに登場させる計画を発表。Roblox社によると、このイベントには3600万人のアクセスがあったという。
この事実を踏まえた上で、日本の市場には面白いデータがある。App Annie社のデータでは、日本のZ世代におけるゲームアプリ利用時間は世界平均の1.5倍なのだ。世界10カ国(ブラジル、フランス、ドイツ、インドネシア、日本、メキシコ、韓国、トルコ、英国、米国)ごとの、Z世代の月間セッション数と月間平均利用時間のデータをみると、日本のゲーム利用時間は、分析された市場の中で最も多く、世界平均の1.5倍もの時間を費やしている。また、それと対照的に、非ゲームアプリで費やされる時間と頻度は最も低く、ゲームと非ゲームのユーザーあたりの平均月間セッション数がほぼ同等であり、Z世代ゲームの平均利用時間がはるかに長いという意味でも他市場と異なっている。つまり、ゲームが音楽の重要なリファレンスになっているならば、日本のZ世代は最も多くその機会を享受していることになる。数年前にRed Bull Musicが「Diggin’ in the Carts」という、日本のゲーム音楽にヒントを求めるプログラムを制作していたが、今となっては必然だったのかとすら思えてくる。
なお、Z世代の音楽への接触機会が多いという論旨は、日本の調査会社のデータをみても変わらない。
Z世代の“耳”はマルチタスク
ビデオリサーチ社がSpotify Japanと共同で行った「Z世代と音声メディア」についての調査と分析研究によると、Z世代は他の世代と比べると音楽を聴く時間が長い。サブスクリプション、無料、問わず音楽配信プラットフォームの利用率は年々増加。特に2019年から20年にかけては2割強から4割強に伸張。音声メディアがよりシームレスに使いやすくなってきていることに加え、コロナ禍で在宅時間が増えたことも、Z世代の接触チャンス創出につながったと考えられる。
特筆すべきは、Z世代の耳のマルチタスクぶりである。以下、同調査結果よりグラフの引用。
Z世代の音声メディアユーザーのうち、音楽を流しながら「音を出してテレビを見た」は6割、また、3人に2人が音楽を流しながら「音を出して動画を見た」経験があり、音の出る複数のメディアに同時に接触することへの抵抗感が少ないことが明らかになった。他世代でも音楽はBGMとして流しながら、他の音声サービスの利用や生活行動をする場合が見受けられるが、Z世代に特徴的だったのは、音楽を共有しながらの通話、音声をダブルで流す場合も、その時々でより聞きたい方に耳を傾けるといった、音声ならではの特性やニーズに合わせて上手に使い分ける、耳をマルチタスクに使いこなす様子が多くみられたことである。
まさしく「フォートナイト」や「Apex」のような、通話機能が担保されたゲームを想起させうる結果だ。ヘッドセットを付けながらゲームの世界に没入していく体験は、上記の条件に当てはまる。
トラヴィス・スコットとフォートナイトがコラボレーションした「9分間」では21億円もの売り上げがあったと言われているが、画面の向こうには、ゲームに素養を持ちなおかつマルチタスクな耳を持った少年少女が23.3億人いることを考えると、むしろまだブルーオーシャンなのではという気がしてくる。
いや、実際その通りなのではないか。
【参考記事: MRC Data Releases the Annual U.S. Music 360 Report】
【Z世代に拡がる「音声メディア」、音楽配信は6割が利用 ~耳をマルチタスクに使い分け、テキストより通話、女性は“人の声”で寂しさ解消~】
【App Annie、世界人口の約3分の1を占める“Z世代”のモバイル利用動向に関するレポートを発表】