CircoLoco Recordsが提案する「バーチャルとリアルの両立」

CircoLoco × Rockstar Games 革新的なパートナーシップを刮目せよ

以前このサイトでも紹介した、人気ゲーム「GTA Online」の中で実装されたバーチャルクラブ“Music Locker”だが、何やら本プロジェクトは中長期的に練られているようだ。コロナ禍における応急処置的な、「現場の代わりとしてのバーチャルクラブ」ではないらしい。

GTAの開発元であるRockstar Gamesは5月25日にダンスミュージックブランド・CircoLocoとのパートナーシップを締結し、新たなレコードレーベル「CircoLoco Records」を立ち上げることを発表した。CircoLoco Recordsが手掛けるEPシリーズの第1弾『Monday Dreamin’Blue EP』は6月4日に配信され、その後は4週にわたって新たなEPを発表。6月25日には、4部作の最後を飾る『Monday Dreamin’ Black EP』がリリースされた。また、フルコンピレーションアルバムが7月9日に発売される。

MoodymannにSeth Troxler、Adam BeyerにDamian Lazarus、さらにはSama’ Abdulhadi…。このプロジェクトに参加するメンツから考えても、相当な資金と時間が投じられていると分かる。イビサ島のナイトクラブ「DC10」をはじめ、グローバルにその名を知られた“CircoLoco”。聖地イビサの中でもとりわけ長い歴史を持つ彼らですら、この1年間は苦境に立たされていた。そんな彼らがRockstar Gamesと手を組み、アンダーグラウンドなダンスミュージックを支援する目的で設立されたのが本レーベルである。それも、“フィジカルとデジタル世界の両軸”で。このプロジェクト発足にあたり、ティーザー映像が公開されたが、そちらをご覧いただいても彼らの意図が見えてくるだろう。

ミラーワールド、VR、バーチャルスペース、仮想空間…。パンデミック以降、様々な言葉でVRについて論じられてきたが、エンターテイメント界隈も例外ではない。しかし、そのどれもが一方通行なものだった。クラブやライブハウスが営業できないのだから、バーチャルで。アバターを介入させて、疑似体験をしよう。大半が、そういったものだった。その空間から何か持ち帰れることはほとんどない。その点で、CircoLoco Recordsの試みは画期的であるように思われる。何せ先述したフルコンピレーションアルバムは、ヴァイナル盤でもリリースされるのだ。ヨーロッパではクラブ再開に向けて具体的な施策が続々と立ち上がっているが、それはデジタル世界の終焉を意味しない。文字通り、フィジカルとデジタル世界の両軸で展開されるはずだ。それは以前別の記事でも引用したように、Tobacco Dock Virtualの例を考えても理解できよう。今一度、同プロジェクトの企画者・Paul Jackの発言を紹介しよう。

長期的な計画に基づいて何かをしたいと考えていたので、現在僕らが使わせてもらっているイベントスペースのひとつ「Tobacco Dock」で何ができるか、そしてそれをどのようにしてデジタル・フォーマットに変換できるかというアイデアに惹かれたんだ。しかし同時に、純粋なデジタルイベントではなく、長期的なビジョンとして、リアルとバーチャルの両軸が存在できるものにしたいと考えている。これこそが、Tobacco Dockの正しいアイデアなんだ。 – 英国のクラブカルチャー誌「Mixmag」が実施したインタビューより

最後に、興味深いFun Factも紹介しよう。Rockstarは当初、創始者のハウザー兄弟によって音楽レーベルとしてスタートした。当時の社名はBMG Interactive。イギリス出身の彼らは、かつてNYでナイトクラブを始めようとも考えていたのだ。フィジカルとデジタル世界、両方のドアを開く鍵は意外なところで見つかるのかもしれない。