「ホロライブ・オルタナティブ」にみるメディアミックスと、その先

メディアミックスの果てにある、もうひとつの世界

大手VTuberグループ「ホロライブ」。日本語を基調とするホロライブ、インドネシア語を主とするホロライブインドネシア、そして英語を第一言語とするホロライブEnglishなど、いくつかの管轄に分かれてグローバルにコンテンツを展開している。所属タレントのチャンネル登録者は合計で4000万人を超える。

そんなホロライブが今年に入り、とあるプロジェクトを発表した。それが「ホロライブ・オルタナティブ」。以下、2月に運営会社のカバーが公表したプレスリリース。

「ホロライブ・オルタナティブ」は、VTuberグループ「ホロライブ」に所属するタレントたちの、また別のセカイでの活躍を描く異世界創造プロジェクトとなっており、漫画やアニメ、ゲームといったメディアミックス作品を順次展開する予定です。

それに伴い、ホロライブ公式YouTubeチャンネルに本プロジェクトのティザー映像も公開された。

今日までにいくつか続報が届いており、コンテンツも随時発表されている。6月4日には、オルタナティブの世界観を舞台としたマンガ作品、『Holoearth Chronicles Side:E ヤマト神想怪異譚』第0話が公開された。

先のムービーにはアニメ『Fate/Grand Order』の制作に携わった面々が関わっており、この漫画はガンガンONLINEで連載中の「ゴブリンスレイヤー」の作画を担当する黒瀬浩介によって描かれた。本プロジェクトのクリエイエティブには、相当なリソースが割かれていることが分かる。連続性のあるメディアミックスコンテンツについては、Cygamesによるスマートフォン向けゲームアプリとPCゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が好例だろう。2期に渡ってアニメシリーズが放映され、週刊ヤングジャンプでは「ウマ娘 シンデレラグレイ」が連載中である。しかも、ゲーム、アニメ、漫画が今のところすべて好評を博している。ホロライブ・オルタナティブと「ウマ娘」には関連性はないだろうが、メディアミックスの発展方法については類似してゆく可能性があるだろう。

VTuberの音楽もずいぶん発展し、もはや「シーン」と呼べる程度には大きくなっている実感がある。 2019年から始まった「VTuber楽曲大賞」は、昨年2020年にも開催されたのだが、一般投票の応募総数が2045票から3448票に大きく伸びた。楽曲MVの再生回数もそれを裏付ける。

参考記事: 栄冠は誰の手に?約3500人が投票した「VTuber楽曲大賞2020」結果発表(音楽ナタリー)

やや話が逸れたが、ここでホロライブ・オルタナティブが見据えるものについて考えたい。冒頭で触れたプレスリリースでは、「漫画やアニメ、ゲームといったメディアミックス作品を順次展開する予定」だと述べられている。漫画はリリースされているし、アニメは先のムービーから想像される上、既に簡素なショート作品がホロライブの公式YouTube上で配信されている。しかし“ゲーム”の予想が立てにくい。ゲームの実況であれば多くのホロライブアーティストが実施しているが、今回のニュアンスではゲームそのものに感じられる。

これについては、漫画と同じく6月の頭にローンチした、謎多きサイト「HOLONOMETRIA」がヒントになるかもしれない。

ホロライブ・オルタナティブ
「HOLONOMETRIA」サイトより

トップページには、「ホロライブ・オルタナティブで語られる世界観のアーカイブ」とある。そのままの意味で解釈すると、アニメや漫画の制作秘話や原画などがここに置かれるということだろうか。さらに特筆すべきは、このサイトのトーンである。以下、同じくトップページで確認できる文言。

ようこそ冒険者《パスファインダー》
我々のデータアーカイブは、あなたを歓迎します。
この星明かりが、あなたの旅路の導べとならんことを。

まるでMMORPGだ。情報が少なすぎて推測の範疇を出ないが、ホロライブ・オルタナティブはまさしく「別のセカイ」を作ろうとしているのではないか。彼女らがあくせくマインクラフトに精を出すのは、もちろんエンタメとして優れているからだが、VR的な仮想空間への正当性を獲得するためでもあるのではないかと邪推する。先日、獅白ぼたんによって企画された「うさ建夏祭り」はなかば集大成的なところがあった。海外勢も多数参加し、同じサーバーに25人以上のホロライブメンバーが集結。獅白ぼたんや兎田ぺこら、企画の中心人物をはじめそれぞれのチャンネルで生配信が行われていたが、リスナーの総同時接続者数は約21万人(筆者調べなので正確な数字ではない)だった。

ホロライブの収益で考えても、YouTube以外にプラットフォームが作れるのであれば、とてつもない武器になるだろう。現時点で最も謎が多いゲーム部門で、それを実行しようとしているのではないか。そしてそれが実現されれば、国内はもちろん世界でも有数の規模の仮想空間が誕生する。