エイベックス、GREE、FOXなどの大企業が参画する“バーチャル”

多層化する“バーチャル”

Facebook社のCEO・マーク・ザッカーバーグが「FBはメタバース・カンパニーになる」と明言し、ARグラスを開発も公言している。Appleも同様にARグラスの研究に勤しんでいると噂がある。GAFAも大注目のメタバース(仮想世界)だが、当然エンターテイメント業界も黙ってはいない。とりわけパンデミック以降のエンタメ界は、急ピッチでメタバースの開発を続けている。

エイベックスが新会社「バーチャル・エイベックス株式会社」を設立し、GREEが今後2-3年で100億円規模の投資をメタバース事業で行い、アメリカのFOXは“世界初のアバター・コンペティション・シリーズ”を今秋にスタートさせると宣言した。いずれも7月半ば~8月の頭に発表されたニュースである。本稿では、エンタメ界で大きな影響力を持つ企業が考える“バーチャル”を整理する。一方はリアルからバーチャルへ変換するインターフェース、他方はSNS的なプラットフォーマーとして、さらに他方はバーチャルワールドで活躍する才能の発掘者として…。現段階で各企業の参画の仕方にレイヤーが生まれてきていることが分かった。

バーチャルアーティスト(イベント)のプロデューサーとして暗躍するエイベックス

エイベックスは、2018年8月より、ダンスパフォーマンスに定評のある「まりなす」などのバーチャルアーティストのプロデュースの他、延べ約10万人が視聴したオンラインバーチャルアイドルフェス「Life Like a Live!(えるすりー)」の企画制作を行うなど、様々なバーチャルエンタテインメント事業を行ってきた。今年7月3日-4日には、オンラインライブフェス「Virtual Music Award 2021」をオーガナイズした。このイベントにはミライアカリや戌亥とこなど界隈のビッグネームのほか、BOOGEY VOXXら注目株も多くラインナップされていた。

メタバース事業に特化した「バーチャル・エイベックス株式会社」では、デジタル空間におけるイベントのプロデュースのほか、リアルワールドのアーティストのバーチャル活動の促進も行うという。以下、8月6日に発表された同社のプレスリリースより。

今後は、出版社などのIPホルダーが保有する既存のアニメ・ゲームキャラクターや、リアルに存在するアーティスト・タレントなどのバーチャルアーティスト活動を促進するとともに、リアルアーティストのライヴ・イベントやフェスなどのバーチャル化を推進し、新たなエンタテインメント体験として、バーチャルならではの表現で感動や熱狂を届けていきます。

すなわち、インターフェースとしての役割も担っていくというわけだ。2018年からバーチャルアーティスト(イベント)のマネージメントを行っているのだから、ノウハウの蓄積は十分だろう。

細田守作品的メタバース構築を目指すREALITY(GREE)

GREEの子会社「REALITY」(当時株式会社Wright Flyer Live Entertainment)は、同名の“Vtuber専用ライブ配信アプリ”を2018年にリリースした。そこから転じて、同社はメタバース事業に参入するという。それに伴い、今後2-3年で親会社であるGREEから100億円の資金が投じられる。以下、GREEが8月6日に発表したプレスリリースより。

コロナ禍において世界中で生活のデジタルシフトが進んだことや、5GネットワークやVRデバイスの普及、ブロックチェーンをベースにした経済圏の拡大が加速している状況を鑑み、REALITYが展開してきたライブエンターテインメント事業をメタバース事業と再定義し、さらに積極投資を行います。(中略)REALITYが作るメタバースでは、バーチャルライブ配信アプリ「REALITY」が提供してきた体験に加え、仮想空間を自身の手で創造・拡張し、オリジナルアイテムの作成や販売を通じて現実世界の収入を得られるクリエイターエコノミーの実現を目指します。

REALITYの代表を務めるDJ RIO氏は、2018年の時点で“人類総アバター化”を想定し、プロジェクトを進めていたという。また、「従来のライブ配信サービスは少数の人気配信者に対してファンが集っているという構造だったところを、よりフラットなメッシュ状のネットワークにするという点については当時から意識的に設計していた」とも語られている。現実世界の経済も関係するともあるように、いよいよ細田守監督作品『竜とそばかすの姫』のようなリアルとバーチャルがほぼ同列に扱われる時代がすぐそこまで来ているのを実感する。

別のペルソナの可能性を追求するALTER EGO(FOX)

アメリカのFOXは、今秋から世界初のアバター専門のコンペティションシリーズ『ALTER EGO』をローンチする。モーションキャプチャーで再構築されたアバターのシンガーを発掘する番組だが、審査員は現在進行形で活躍するスーパースターが抜擢されている。カナダが誇るマルチアーティスト・グライムス、グラミー賞を7回も受賞しているアラニス・モリセット、プロデューサー兼起業家のウィル・アイ・アムが、本プログラムでは審査員としてアナウンスされた。

しかしアバターの位置付けは先述した2例と大きく異なる。『ALTER EGO』の場合は、「失われた夢とセカンドチャンス」とプレスリリースに描かれている。つまり、挫折したことのある才能が対象であると明言されているのだ。完全にリアルワールドのプライオリティが高い。その前提があって、FOXエンターテイメントのオルタナティブ・エンターテイメント&スペシャル部門の責任者であるロブ・ウェイド氏は、「『ALTER EGO』は才能とテクノロジーを融合させ、FOXならではの方法で、シンガーコンテスト番組に革命をもたらします」と述べている。Twitterなどの各種SNSには番組のニュアンスが分かる投稿がなされているが、ここからどう発展してゆくのか、大いに期待したい。