大企業と行政が連動して取り組む、ソウル市のメタバース事業
近頃、韓国・ソウル市がメタバースへ熱視線を注いでいる。約3310万円を投じ、同市の新しい公共サービスを創出するという。経済、文化、観光、教育などさまざまな分野でメタバース・プラットフォームを採用し、物理空間と仮想世界の融合を目指す。2026年までには、アバターが市民の苦情に対応し、様々な観光コンテンツを“バーチャル空間で”提供する予定だ。
アジアのグローバル・ニュースペーパー「亜州経済」によると、現在の韓国では多くの分野でメタバース・プラットフォームの導入が加速しているという。ソウルの教育機関ではバーチャル空間を利用した理科の授業が行われており、約2100人の生徒が自分のアバターを使って「ギャザータウン」と呼ばれる仮想展示場を訪れている。Naverのアバター・プラットフォーム「Zepetto」は、ユーザーが自分のアバターを作成できる仮想空間を提供することで2億人以上のユーザーを獲得した。
ITZY 「Not Shy (English Ver.)」 M/V in ZEPETO
そして11月3日、ソウル市はあらゆる行政分野でメタバースを活用したサービスを提供するための中長期的な戦略を盛り込んだ5ヵ年計画を発表。この計画では、2022年から2026年までの間に、3つの段階を経てメタバースサービスを導入することになっている。具体例として、先述したアバターによる苦情への対応、失われた文化財のバーチャル復元、伝統的なランタンフェスティバル(バーチャル)の開催などが挙げられている。ソウル市のスマートシティ政策担当ディレクターであるパク・ジョンス氏は、これらの施策についてこう述べる。「メタバースは、技術レベルやユーザーの要求に応じて様々な形で進化しています。特にコロナウイルスが発生した後は、新しいパラダイムとして急速に浮上していると言えるでしょう」。
また、ソウル特別市の公式サイトによると、韓国国内では以前より官民一体でのメタバース構築が進んでおり、最大手の自動車メーカーであるヒュンダイ、通信事業者のSKテレコムなどの事業参加も明らかにされている。
日本の街づくりにもメタバースのテクノロジーは活かされている
小学館とプレティア・テクノロジーズが業務提携して開発を進めている「ARタウン」は、最先端のARを用いた地域活性化プロジェクトだ。ARタウンでは、その地域に合わせた情報やエンタテインメント、コミュニケーションツールを提供することで「まち」を盛り上げ、そこで暮らす、または訪れる人々に役立ち、よろこんでもらえるような様々な企画を提供していくという。「街の歴史」、「観光情報」、「お店のナビゲーション」から「街のクイズ」や「ARゲーム」まで、街のあちこちにコンテンツを配置し、スマートフォンを通した体験が提供される。キャラクターと一緒に写真が撮れたり、ユーザー同士でコミュニケーションがとれるなど、様々な可能性を探る。
Pretia AR Cloud Platform Promotion Movie
また、国内の商店街では初めての試みとして、道頓堀ナイトカルチャー創造協議会が顔認証・ARを活用して新たな街の楽しみ方を提案している。以下、同組織がPR Timesより発表したプロジェクトの概要。
2021年12月7日(火)~12月26日(日)に顔認証を活用したAR・VRコンテンツなどの提供で道頓堀の魅力を伝え、商店街の複数の店舗で顔認証決済による特典提供や、スタンプラリー形式で景品があたる抽選イベントを実施しながら、エリア全体の回遊性向上と非接触サービスによる安心・便利な観光体験を提供します。
国内の商店街では、顔認証決済は初の試みとなり、大阪の代表的な観光スポットでもある道頓堀での実施により、手ぶら観光サービスといった新たな観光モデルの構築を目指します。
しかし、日本国内ではまだソウルに見られるような多次元的・複眼的なプロジェクトは多くなく、行政の一部と一企業がタッグを組んだような、一回性の高さが目立つ。如何にして、今の状況からスケールさせていくかは大きな課題のひとつだろう。すぐ横を見ると、メタバースは“一般社会”のレベルにまで近づいている。