拡張される「バーチャル渋谷」。明らかになる“五感”の重要性

バーチャル渋谷で実装された「空間音響」

10月16日〜31日まで、渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトが主導する『バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021』が開催された。その一環として、4人組ダンスヴォーカルユニット“新しい学校のリーダーズ”によるバーチャルライブが行われた。バーチャル渋谷のハロウィーンセットが組まれ、エクスクルーシブな演出とパフォーマンスを展開。海外からログインするオーディエンスも散見された。前回・前々回のバーチャル渋谷(原宿)と同様、「cluster」のプラットフォームを用いて行われた。

この日はしかし、スペシャルだったのは彼女たちのパフォーマンスだけではない。clusterアプリ内において、クレプシードラ株式会社*の空間音響技術が採用。音場シミュレーションによって、まるでライブ会場にいるかのような迫力ある音響を実現するだけなく、実際の渋谷スクランブル交差点の音の響きをサンプリングすることにより、バーチャル空間における渋谷の街鳴り(まちなり)が再現された。つまり、cluster内でVRデバイスを装着したユーザーはより“リアルな”体験を享受できたのである。

*クレプシードラ株式会社:
2020年に設立された空間音響技術のスタートアップ企業です。独自の空間音響収録・再生技術及びAI等を用いた新規開発技術(*特許出願済み)により、大胆かつ繊細なクオリティーの空間音響体験を提供するイノベーターです。“Creativity for All. Create a Culture.” をミッションに掲げ、空間音響に関する高い技術力と専門性を通じて、新しい文化創造を追求します。

聴覚が立体的になったことで、体験が豊かになったと感じるオーディエンスは多かったのではないだろうか。そして、現場における五感は我々の無意識下においても重要な役割を果たしていたことにも気付いただろう。ライブハウスやクラブのどこに立っているのか、その周りにサウンドに影響する物質はあるのか、ステージとの距離はどの程度か…。アーティストにとってライブは一回性の強いコンテンツだが、実はオーディエンスの観点から考えても再現性の無い体験なのである。全く同じ条件のライブは二度はない。聴覚が強調されるだけで、その体験が何倍にも増幅される。今後もテクノロジーの発達と共に五感は拡張されてゆくだろうし、それに伴ってアーティストのアプローチにも変化があるかもしれない。

バーチャル渋谷
PR TIMESより

VRデバイスの普及or進化

筆者がキズナアイのライブを題材にした記事で参照したデータが、「VRデバイスの認知度と普及率には大きな乖離がある」というものだ。今年7月にLINE株式会社が発表した「LINEリサーチ」によると、「VR」の認知率は全体で90%だが、実際にデバイスを用いてVR空間に没入する体験をしている割合は5%程度だという。つまり、VRについて“知っているけど必要ない”と認識している人が大半なのである。恐らく、今回のライブもVRデバイスをフル装備で体験した人も多数派ではないだろう。デベロッパーやメディアはVRの有用性をいかにして打ち出してゆくべきかに頭を悩ませるフェーズなのかもしれない。とはいえ、大資本や行政が開発に巨額を投じているので、何らかの形で我々の生活に“メタバース”が関与してくるのは時間の問題だろう。

11月8日にnoteが「いまこそ知りたいVRとメタバース 〜これから起きる未来とは〜」と題したカンファレンスを行っていたが、こちらでもVR普及は大きなテーマのひとつだった(2:02:01~)。

大きく分けると、ここでは以下の4つが大きな論点として挙げられていた。

・行動コスト(VRを起動するまでの時間や手間)の軽減
・NFT(非代替性トークン)の台頭など、VR上におけるエコシステムの構築
・シーンを先導するカリスマの存在
・習慣や文化の問題ならば、これまでの人類史から考えてもクリアできる

これに加えて、「Second Life」のようにメタバースとして先行した事例を参照することも重要だろう。なお、上で紹介した新しい学校のリーダーズのライブ動画は、12月31日までアーカイブ視聴が可能だ。所感だが、恐らくこの1か月半の間にも何らかの進展があるような気がする。