メタバースのパイオニア「Second Life」に学ぶこと

リメンバー Second Life

メタバース(仮想空間)の開発が進む昨今、思い出されるのは2000年代に一世を風靡した「Second Life」だ。…と言っても、日本でローンチしたのはレイトマジョリティのタイミングだったので、日本人がこの仮想空間に熱狂的だった時間はそう長くはないかもしれない。しかし世界規模での実態は凄まじいものがあった。まさしく狂乱。若者はリアルとは異なる新たな遊び場として認識し、各企業は画期的なビジネスの種として飛びつき、多くの人がこのメタバースに夢を見た。しかし、それは皮肉にも「仮想」のまま終わってしまったのである。

「Second Life」は、アメリカのサンフランシスコを拠点に置くリンデン・ラボによって2003年の6月にスタートした。同年12月には土地のオークションが開始され、2005年には仮想通貨(リンデンドル)と現実通貨の両替が可能だった。リアルマネーで1億円規模にまで跳ね上がったゲームエリアもある。そして2006年、未来はSecond Lifeにあると多くの人が思った。Business WeekはSecond Lifeを表紙にし、American ApparelやDell、Reebokなどが仮想ストアの構築を急いだ。ロイターは、Second Life内に専任の支局長まで設けたのだ。人々は急いでサインアップし、自分のアバターを作成した。バーチャル空間内を飛び交うリンデンドルと、そこで行われる営みはリアルライフ以上に価値を持つことだってあった。Luke Slaterを筆頭としたアンダーグラウンドな住人まで、仮想空間に魅入られていたのである。

しかしその栄光は長くは続かなった。先述の通り、日本でローンチされた2007年には陰りが見え始めていたのだ。同年、モーガン・クレンダニエルはアメリカの総合雑誌『GOOD』に「Second Lifeはもはや誰も使っておらず、あれほど活気があったビジネスは閉鎖されているようだ」と書いている。「私が訪れたとき、DellやReebokのような店には従業員はひとりもいなかったし、客もいなかった。Second Life全体が過疎状態なので、何も驚きはなかったが」。2011年の時点で、1600万人いた月間平均ユーザー数は100万人にまで落ち込んでいた。ちなみに、同時期のFacebookの月間平均ログイン数は約5億人である。

2017年にTechCrunch Japanで公開された記事「セカンドライフはなぜ失敗したのか、そしてclusterはVRリビングルームで何を目指すのか?」では、「バーチャルSNS cluster」のCEO・加藤直⼈の発言を交えてこう指摘する。

加藤CEOの見立てでは、Second Life失敗の最大の理由は「過疎りやすい構造」だ。

「Second Lifeでは1つのワールド(シムと呼ぶ)に最大50人しか入れませんでした。さらに、ユーザーが自由に空間が作れたので(アバター)密度が低くなりがちだったのです」

Second Lifeでは同時刻にユーザーたちが集まる仕組みもなかったのでセレンディピティー頼みだった。延々と仮想世界をアテもなくさまよえるのは一部の熱狂的なユーザーだけだった。

当時日本で流行っていたSNS、モバゲーやGREE、mixiの特性を考えても、この指摘は正しいように思われる。例に出したSNSは、いずれも「バズ」が目的でなく、特定のコミュニティ内における閉鎖的なコミュニケーションだった。そしてこの記事が示すように、偶発的だった。運良く“サッカーが好きな人が集まる部屋”を見つけられても、既にそのチャットルームは誰にも使われていない。

アフター Second Life

しかし本当にSecond Lifeは終焉を迎えたのだろうか? これには“ノー”と言わざるを得ない。そもそも100万人いる月間ユーザーを「少ない」と切り捨てるプラットフォーマーはいないだろう。新しいメタバース・カンパニー、例えば「Roblox」の1日4,300万人のアクティブユーザーと比較すると、確かにボリュームとして物足りなく感じるかもしれない。けれども、2021年現在もリンデン・ラボは健在だし、Second Lifeには毎日20万人のアクティブユーザーがいる。年間3億4500万件以上の取引が行われており、クリエイターへの報酬は年間8,040万ドル以上もあるのだ。「終わった」とされるプラットフォームで、である。

さらにSecond Lifeには18年間培ってきた経験がある。メタバースの運営に関しては、一日の長では収まらない差が新興企業との間にはあるだろう。とりわけ仮想通貨においては、どのプラットフォームよりも優位に立っている。実際、リンデン・ラボはSecond Lifeで稼いだ仮想通貨を米ドルに換金できる「Tilia Pay」と呼ばれるクロスプラットフォームの決済システムを用意することで、現代におけるメタバースの役割を果たそうと考えている。メタバースの原点とも言えるSF小説「スノウ・クラッシュ」の内容を振り返っても、仮想通貨の役割は軽視できないはずだ。

同社の会長を務めるBrad Oberwager氏は、アメリカのテックメディア「VentureBeat」のインタビューでこう答えている。

メタヴァースは今、完全にバズワードです。Second Lifeはパイオニア的存在でしたが、今でも精力的に稼働していることを多くの人が知りません。他のゲーム会社と同じように、我々もCOVIDの影響を受けました。しかし今、我々はコロナ禍以降のタイミングで再び脚光を浴び始めている。これは私たちにとって非常に魅力的なことです。