独・BMWが独自のメタバース「JOYTOPIA」をローンチ

世界屈指の自動車メーカーがメタバース事業に参画

FacebookやGoogleとも協業するメタバース制作会社・JOURNEEと組み、ドイツの自動車メーカー・BMWが新たなプラットフォーム「JOYTOPIA」を今年の9月にローンチした。端的に言って、現時点では滑っている。初ライブにcoldplayを招聘したにも関わらず、Youtube上にアップされているアーカイブ映像は10月12日時点で29,289再生と振るわない。

BMWのチャンネル登録者は現時点で123万人おり、元々のスケールは決して小さくはない。過去動画をみても、10万PVを超えるものはざらにある。Coldplayのイベントでは、ユーザーはアバターで参加し、ダンスを行ったり、ステージに近づいてバンドの演奏を好きな場所から鑑賞できた。ジェスチャー機能を利用し、ユーザー間でコミュニケーションを取ることも可能だ。そう、かつてTravis ScottやMarshmelloを呼んでバーチャルライブを行った「Fortnite」のように。

…じゃあFortniteでいいじゃない。というのが、不振に終わった理由ではないかと考える。そしてアメリカのテック系ニュースメディア「The Verge」は、このプロジェクトについて明確に揶揄する意図で記事を書いている。

「メタバース」って完全にバズワードになってるけど、それってマーク・ザッカーバーグのせい? 私はこの会社がなぜこのようなことをするのか、また、Coldplayが現代版Habbo Hotelの中でバーチャルコンサートを行うことが「デジタル世界の飛躍的進歩」であると主張する必要性を感じているのか、理解するふりをするつもりはない。ただ、明らかにおかしなことが起きていることだけは分かる。 – The Verge シニア・レポーター Sean O’Kane

ちなみに、O’Kane氏の記事はJOYTOPIAローンチ・イベントの前に書かれたものだ。乱暴な言い方をすると、Coldplayがこのプラットフォームに現れる前からその正当性を危ぶまれていたのである。今や仮想空間もフロンティアではない。

BMWの真意はまだ不明確

とは言え、ローンチしてまだ1か月しか経っていないのだ。「つまらん」と突っぱねるのは早計だろう。次のコンテンツも制作中のようで、JOYTOPIAの公式サイトには明らかに何かを準備している様子がうかがえる。

このメタバースは、3つのワールドによって構成される。いずれもBMWが重要だと考える要素、「Re:THINK」、「Re:IMAGINE」、「Re:BIRTH」という3つの要素を根拠とするものだ。Re:THINKでは循環型経済の構成要素とそれがもたらす可能性を追及し、Re:IMAGINEでは同社の重要なプレゼンテーションやメッセージが発表され、Re:BIRTHでは未来の都市に広がる個人のモビリティーをプロトタイプする。明らかにSDGs以降の価値観に基づいたアイデアだが、自動車会社がそこにリソースを割くのはなかば必然なのかもしれない。完全自動運転の車が開発段階にあり、あまつさえテスラのCEOであるイーロン・マスク登場によって産業の構造自体が大きく揺れ動いている。さらにその状況へ新型コロナウイルスが直撃し、BMWに限らない大手自動車メーカーは早急な事業転換を迫られた。

化石燃料を必要としないメタバースは、多くの二次産業従事者には魅力的に映るだろう。現時点ではまさにメタバースへ“逃げ込む”ように見えるBMWだが、大部分の企業がそうであるように、メタバース事業に関しては今後の動向次第だろう。何せ、界隈全体がまだ“世界”を作っている段階なのだ。ルールにすらまだ手が及んでいない。上のティーザー映像の言葉を借りれば、“Why Are We Here?”に対する答えを探している最中なのだ。

BMW JOYTOPIA

ここで今一度、ポケモンGOを開発するナイアンティックのCEO、ジョン・ハンケの言葉を思い出そう。

最近、テクノロジーやゲーム業界の著名な方々をはじめ、多くの方々が近未来の仮想世界のビジョンを実現することに興味を持っているように見受けられます、けれども、『スノウ・クラッシュ』やウィリアム・ギブスンの著作では、それらのテクノロジーが間違った方向に進んだディストピア的な未来への警告として描写されています。社会として、SF ヒーローが仮想の世界に逃避するような世界にならないことを願うことも、そうならないように努力することもできます。Nianticは後者を選びます。

ユーザーも、漏れなくそうありたい。