凄まじいスピードで進化する、クラブシーンにおけるバーチャルプラットフォーム
弊サイトでも「バーチャル原宿」、「GTA Online」、「Tobacco Dock Virtual」など、VR世界におけるバーチャルベニューをいくつかピックアップしてきた。それらの記事がアップされる度に新たなプラットフォームが立ち上がり、その周辺で起きるイノベーションは昨今のエンターテイメントにおいて最重要トピックになりつつある。今年の7月21日には、映像プラットフォーム「Fractal Fantasy」が新しいプロジェクトを立ち上げた。本サイトにアクセスすれば、24時間いつでもバーチャルなダンスフロアを体感できる。このメタヴァースには、どのデバイスからでも出入りが可能だ。Fractal FantasyはSinjin HawkeとZora Jonesによって立ち上げられ、ディストピア的な意匠が施されている。
多くのメタヴァースが立ち上がった今、注目すべきはまさしく「意匠」であると感じる。それは単純にデザインのみを示さず、プラットフォームの世界観やユーザーに及ぼす影響力も含めたトータルな趣向を指す。ゲーム業界でいう、“ゲームデザイン”がそれに近いかもしれない。この記事では、間もなく行われる〈TREKKIE TRAX〉主催のVRパーティにフォーカスしながら意匠について迫りたい。日本が誇るダンスミュージックレーベル／クリエイター集団のワールドツアーの最終公演は、バーチャルclubasiaで開催される。なお、プラットフォームにはVRChatが採用された。
VRChatが実現した“ワールドツアー”
7月17日から続くTREKKIE TRAXのワールドツアーは、Selter（アメリカ）とLONER（オーストラリア）を経て、7月31日にclubasia（東京・渋谷）にたどり着く。レーベル創立9周年を祝うアニバーサリーイベントであることから、本来であればリアルなベニューで華々しくイベントを開催するはずだったろう。これまでの周年イベントも中規模以上の施設で行ってきたし、2019年の7周年パーティに至っては新木場 STUDIO COASTのクラブナイト「ageHa」で開催された。実に1500人規模のイベントであった。
けれども、世界3都市を回るワールドツアーの開催は、VRChatでなければ実現は難しかっただろう。ましてや、今回はラインナップにそれぞれの都市のローカルアクトまで抜擢されており、イベントとしてのスケールの大きさを感じさせる。
それぞれのベニューのデザインを再現しつつ、けれども世界観は統一されている。「バーチャル原宿（渋谷）」しかり、同じプラットフォームを利用するのはトンマナの整合性を保つために有効である。そしてVRの世界においてはプラットフォームの利便性よりも、“意匠”と嗜好の嗜好の一致がユーザーの意思決定に影響している気がする。YouTubeの再生数（再生数のみがコンテンツの良し悪しを判断しない前提はあるものの）で考えても、先日の「LONER Online」は、グローバルに活躍するDJが数多く参加したTobacco Dock Virtualに匹敵する。TREKKIE TRAXの意匠とはつまり、デジタルネイティブ世代によるものなのだ。レーベル関係者のほぼ全員が平成以降に生まれている。同レーベルの中核を担うMasayoshi Iimoriはバーチャルベニューに対し、「VRのクラブは現実の代替というよりオリジナル」と評価した。
クラブに行ける年齢になる前に、彼らはMMORPGやその他オンラインプラットフォームで他者とコミュニケーションを図るマナーを獲得していた。ゆえに、その文脈を知っている同世代との意思疎通は容易い。筆者も今回のTREKKIE TRAXワールドツアーにはいずれも参加しているが、ほかのバーチャルベニューと比較して圧倒的に居心地が良かった。
ユーザーはアバターを介してハート（いいね）を送り合ったり、あるいはYouTubeのスーパーチャットよろしく投げ銭も可能だ。そういった様々な意匠を、ルールを明文化せずともVRChatのユーザーは享受できていた。キャラクターデザインもFortniteやApexなどの現行の欧米的なものでなく、東アジア的趣向が凝らされているように感じる。いずれの論点でも、今後さらにバーチャルベニューに関する研究や調査が進められ、“意匠”も多角的に発展してゆくだろう。
最後に、今週の最終公演に向けてVRChatのHow To動画をご紹介する。
■ TREKKIE TRAX 9th Anniversary VRChat World Tour SHOW3
@ VRChat
＜VRChatを介さない場合の配信チャンネル＞
https://www.twitch.tv/showsuzuki
