「サードプレイス」のVR化はどこまで進められるか?

かつてクラブやライブハウス、ひいては街を覆っていた“切実さ”をVRテクノロジーは実装できるのか。

日本ではClusterが、海外ではSansarなどが積極的にVRテクノロジーをエンターテイメントに導入している。オンライン空間に作られた「バーチャル渋谷」にはコロナ禍以降、Ken IshiiBISH、国外からDJのSurgeonEllen Allienらがパフォーマーとして登場している。イーストロンドンの多目的施設・Tobacco Dockもバーチャル化し、そこでは今年の5月にバルセロナ発祥の人気パーティ「elrow」が開催された。この1年の間に、数多の事例が生まれている。

いずれのプラットフォームもバーチャル空間の中に自身のアバターを作成し、一人称視点でオンラインイベントを体感できるというものだ。アカデミックな業界においても、シカゴ大学がオンライン・キャンパスを実施している。インターネットの使用頻度が比較的低い高齢者層も、リアルな現場が機能していなければ、喜んでバーチャル空間に行くことが調査によって分かってきている。

とはいえ、VRが一般化したとは現段階では言い難い。先述の「elrow」の再生回数を見ると、一連の動画の中で最も観られているものでも7,863回(2021年5月11日時点)にとどまる。2020年12月30日、DOMMUNEの生放送で宇川直宏氏は現状のメタヴァース(=仮想空間)を「借り物のゲーミフィケーション」と揶揄した上で、VR空間における生に対する切実さの欠如を指摘している。つまり、「提供されるVR空間がゲーム的なのであれば、そもそもゲームをやればよいのではないか」という見方もありうるということだ。これについては、今後も様々な議論が予想される。クラブやライブハウスに行く行為は、ラップトップの前で仮想現実を楽しむよりもはるかに危険が伴う。しかしそれが“生の感覚”であったことは、コロナ禍以降、多くの人が痛感しているはずだ。それらをいかにしてインストールしてゆくか、今後のVRの発展には大きく影響があるだろう。

しかしひとつ忘れてはならないのは、VR空間でのライブパフォーマンスの事例は、パンデミック以前から見受けられた点だ。DJ/プロデューサーの Marshmelloが、Epic Gamesの看板コンテンツ「Fortnite」でバーチャルライブを行ったのは2019年2月だ。したがって、VRテクノロジーは社会情勢とは無関係にライブ体験の新しい選択肢をもたらす側面があることも念頭に置く必要があるだろう。