ベトナム発のNFTゲーム「Axie Infinity」にみる“Play to Earn”

変容するNFTがもたらす意味

ここ最近、ますますNFTが熱い(ように見える)。「非代替性トークンが音楽を救う」だとか、「ゲームはもはや遊ぶためだけのものではない」だとか、パンデミック以降は従来の音楽ファンやゲーマーにとっては眉唾物に思われる言説が飛び交っている。胡散臭さが先行していた“Play to Earn”(ゲームをして稼ぐ)だが、少しずつ具体的なコンテンツや事業が開発され始めている。

NIKEがNFTブランド「RTFKT(アーティファクト)」を買収した。主にバーチャルスニーカーを制作するデザイン集団は、これまでにデジタルコレクティブを中心に作品を発表してきた。2020年に設立されたばかりのスタートアップながら、翌2021年には10代のデジタルアーティストFEWOCiOUSと共作した約3.5億円のスニーカーを販売。この製品は発売開始から6分ほどで完売した。NIKEのCEOであるジョン・ドナホーは、同社の買収について次のように述べている。「この買収はNIKEのデジタル変革を加速させ、スポーツ、クリエイティブ、ゲーム、カルチャーが交差するシーンにおいて、新たなサービスを提供するための新たなステップである。(中略)我々の計画は、RTFKTブランドに投資し、彼らの革新的で創造的なコミュニティと連携し、成長させ、NIKEのブランドと機能を拡張することにある」。買収額は明かされていないが、2021年6月時点における評価額は3330万ドル(約37億8000万円)だった。また、Adidasも同年12月にNFTプロジェクト「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」とのパートナーシップを発表している。

Play to Earn
RTFKTより

現状では、高値で取引されているNFTは投機目的であるケースも目立つ。2021年3月22日、TwitterのCEOを務めるジャック・ドーシー氏の初ツイートがNFTとしてオークションにかけられ、約290万ドル(約3億1500万円)で落札された。すなわち、市井の中で使われる場面の想像があまりできなかった人も多かっただろう。岩のNFTが1億5000万円で取引されるなど、凡庸な感覚では理解が追い付かない現象も見受けられる。しかし、その感覚をメインストリームまで推し進めるのは、やはりゲームではないかと思う。

NFTゲーム「Axie Infinity」について

2021年、ゲーム業界を席巻していたのは「Axie Infinity」だろう。このゲーム内では暗号資産を入手できたり、NFTの売買が可能だ。運営会社はベトナムに拠点を置き、同年8月度は収益として約3億6400万ドル(約400億円)」を計上している。前月比で185%の成長であり、4月から考えると5か月で約543倍も売り上げを伸ばした。

Axie Infinity内では、「SLP(Smooth Love Potion)」と呼ばれる仮想通貨が大きな要素だ。主に次の2つの方法でSLPを入手できる。アドベンチャーモード(対コンピュータ戦)をプレイすることで1日50SLP獲得でき、またはデイリークエスト3つをクリアすることで25SLPを稼げる。2021年10月の時点で、SLPの価格は約7円。したがって、このゲームをプレイするだけで1ヶ月に約1万円~1万5千円((50SLP+75SLP)×7円×30日)を稼ぐことが可能なのだ。

ただし、このゲームを始めるにあたり、ある程度の初期投資は必要である。まずAxie Infinityでは、キャラクターのNFTを購入しなければならない。ゲームはチーム戦であるため、キャラクターが3体必要だ。安いキャラでも1体2万円程度かかり、最初に3体を揃えるのにおよそ10万円ほど必要になる。それに加え、マーケットプレイスの手数料とブリーディング(キャラクター強化)の手数料がかかる。とは言え、先述の3.5億円のNFTスニーカーや1.5億円かかるNFT岩に比べると、だいぶ現実的だ。事実、フィリピンではこのゲームで生計を立てる人も現れ始めているという。ゲームのシステムについては以下の動画(全編英語)が参考になる。

コロナ禍によって失職した人の中には、このゲームで生活を立て直せたケースもあるという。フィリピンの平均月収は5万円。3体揃えるのに10万円かかるのであれば、とてつもない出資に見える。ましてや失職した人に払える額ではないだろう。これには画期的なからくりがある。それが「スカラー制度」というシステムだ。Axie Infinityですでにキャラクターを複数保有しているプレイヤーが、保有していないプレイヤーにキャラを貸し出す仕組みである。このページに提供者がリストアップされており、プレイヤーの取り分が最大75%、1日あたり30ドル(約3300円)ほど稼げるとオファーが並ぶ。言わば、“求人票”である。

NFTが発明される前から“ゲーミフィケーション”という言葉があるように、今日の社会においてゲームの存在は重要だ。それはもはや、娯楽の枠を超えて生活の中心になりつつある。「ゲームばかりやってないで…」言われていたのも今は昔。「とっととゲームをやりなさい」と言われる未来が、すぐそこまで来ているのかもしれない。いや、フィリピンの一部のゲーマーにとっては、それが既に日常なのだ。