【連載:SDGs】平和と公正を実現するための課題。バーチャルで世界の紛争地のリアルを知る。

SDGs16番目の目標に「平和と公正をすべての人に」が掲げられています。
目標を達成するためには、さまざまな問題への解決が必要であり、世界のすべての地域や人々を対象として、紛争や暴力からの開放、教育環境の整備、衛生状態の向上などが必要であると考えられます。

このような世界中で起きている社会問題のなかには事態が深刻化しているものも多くありますが、私たち日本人にとってイメージしにくいのが実情です。
世界中の人々が平和で公正な社会で過ごせるように、国や機関が主体となってさまざまな取り組みが行われていますが、私たち一人ひとりがまずすべきことは、いま世界で起きている紛争問題を知ることではないでしょうか。
そこで今回は、紛争地のリアルを知ることができるバーチャル体験を紹介し、実際に現場の状況把握に役立つような情報をお届けします。

世界の紛争状況

「紛争」とは、宗教や文化の違いや民族間の対立、経済問題などから成り立つ争いのことです。他国間での争いや、国内の対立による争いなど、状況もさまざまです。
現在でも紛争が続いている地域は少なくなく、アフガニスタン紛争やシリア内戦、リビア内戦などがあります。
その中でも断続的に紛争が発生しているアフガニスタン──2001年から今もなお紛争が続いており、アフガニスタン紛争における民間人の負傷者・死者は、2009年以降の統計で10万人(註:国連アフガニスタン支援団)を超えています。
このような紛争地の状況を自分たちの問題として考えることは容易ではありませんが、日本人も他人事ではありません。
最近だと、ミャンマー国軍のクーデターにより、ミャンマー国内の紛争激化が懸念されているなか、日本人ジャーナリスト北角裕樹が現地で拘束されたという事件がありました。
日本向けメディアやSNSからミャンマーの現状を発信する中で現地の紛争に巻き込まれたという事例ですが、世界で起こっている紛争の実態を日本国内に届けようとする活動も行われています。
実際に起きている紛争の事態を知り、日本や世界各地に広めていくことが日本の重要な役割でもあるでしょう。
参考:ミャンマー軍、日本人ジャーナリストを解放

世界銀行がVR動画を制作。紛争地ニジェールの現状

西アフリカに位置するニジェールは、国内の武装集団による民間人への襲撃や、隣国との紛争により、貧困が激化しています。
国際開発金融機関の世界銀行(The World Bank)は、このニジェールの紛争やテロからなる貧困問題を広めるために「Preventing Conflict, Promoting Peace」というVR動画を制作しました。
世界銀行は、VR動画を通じて、ニジェールにおける貧困のリアルを伝え、問題を解決するためのきっかけづくりを促進しています。2Dでの映像視聴や、VRヘッドセットを通じて現地の暮らしをバーチャル体験することが可能です。
VR動画の中では、さまざまな登場人物に焦点が当てられ、人々がどのようなことに不安を抱き生活をしているのか、紛争地という場所でどういった方法で教育を行い、ビジネスを発展させていくのかが描かれています。

動画の中で仕事がないことが一番の問題だと言うAlisonさん。
人々は仕事がなく、ただ部屋の中でじっと座り、何もない野原を歩いているだけの生活に不安を抱えています。
しかし、紛争が悪化すると、隣国から武器を持った人々がニジェールに入り込み、土地開拓されてしまう状況にさらに不安を覚えると言います。
国内の問題だけでなく、隣国から成り立つ紛争がさらに人々の貧困問題を悪化させている様子がリアルに伝わるVR動画だと感じます。

紛争地帯で活動する兵士にクローズアップ。「The Enemy」の狙いとは

新たな視点から紛争問題に取り組んでいる「The Enemy」。
世界の紛争地の実態を伝えているVRドキュメンタリー作品ですが、紛争地帯で活動する兵士にクローズアップされているところが特徴的です。実際の兵士の取材内容に基づいて制作されたThe Enemyでは、兵士目線の紛争地のリアルを知ることができます。
また、ARの技術の導入により、馴染みのある地域や街など、現実世界の中でも紛争地域の兵士と対面することが可能です。本当の紛争地に入り込んで、兵士と直接話しているかのような体験ができます。
紛争地で被害を受けるのは、民間人だけでなく、現地で戦っている兵士たちも同様です。
バーチャル体験を通して、兵士一人ひとりにも人権があり、私たちと同じように家族や友人がいることに着目されていることに気がつきます。それらを認識すると、兵士たちが本来の敵ではないということが感じられる感慨深い作品です。

平和と公正を実現するためには、紛争地の状況を知ること

さまざまな社会問題が発端となり、世界各地では紛争が起こっています。その裏には、多くの民間人や子どもたち、兵士が被害を受け、治安悪化や貧困の激化などに繋がっています。
こうした世界の紛争を解決するには、各国の協力が必要不可欠です。普段、日本で暮らしていると身近に感じられないかもしれませんが、バーチャルを通して紛争の現状を知ることが私たちのできる支援の一つだと言えます。
今回紹介したPreventing Conflict, Promoting PeaceThe Enemyの活動は、紛争地の人々の暮らしや兵士の活動に向き合うことができます。
これらは、紛争問題が私たちの関わっている国際問題の一つであると認識させ、平和と公正を実現するためのきっかけ作りになると言えるでしょう。